人気ブログランキング | 話題のタグを見る

紙の子守歌   (8)



 指物、蒔絵、漆器、下駄、張子、鋸鍛冶、…
「この、めんぱ、というのですか、これはなんですか」
「それは、檜の柾板を薄くひき、曲げ木のように輪にしたものを桜皮で
縫ってとめ、檜の板で底をつけたものです。蓋もおなじようにしてつく
り、ぴたりと合うようにしてから、漆で仕上げます。静岡市の北部にあ
る井川というところの特産です」
 用途はいろいろですが、弁当箱につかったりするのがおもなようです、
と記者は説明した。お櫃のような効果もあり、中身がながもちするのだ
ともいった。
「それは、知りませんでした。となりの県に何十年も住んでいながら、
なさけないことです」
「最近では、デパートの食器をあつかう売場などにもならんでいるよう
です。もっとも、ぼくだって、この取材をするまで、なにも知らなかっ
たんです」
「こちらこそ、こんな計画をもちこんだにもかかわらず、勉強不足でし
て…。デパートですか。買物などは、すべてうちのものにまかせっきり
で、知りませんでした」
 自慢できることではありませんな、と山並は、にが笑いした。
 ほかにも、船大工、魚籠、蛇の目傘、つげ櫛、紙漉きなど、その数は
思いのほか多い。

                           (つづく)

紙の子守歌   (8)_d0063999_9404486.jpg




「紙の子守歌」は、毎週月曜日・木曜日(平日)に掲載します。

 << よろしければクリックを
by revenouveau | 2006-09-28 09:55 | 小説のようなもの
<< アタシ、どこか間違ってる?  ... イトウの恋 >>