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月 魚

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


老舗の古書店〈無窮堂〉の若き三代目・本田真志喜と、かれの幼なじみで
〈せどり屋〉と呼ばれる古書商を生業とするヤクザまがいの男を父にもつ
瀬名垣太一。ふたりは、その才能を見抜いた真志喜の祖父に目をかけられ
ていたことで、幼いころから兄弟のように育ちました。

そして、物語を貫くのは、ふたりのあいだに横たわる罪の意識を、生んで
しまった、ある夏の日のできごと。

真志喜の父が捨てようとしていた、古書の山のなかから、まだ、子どもで
あった太一が見つけてきた一冊の本。それこそ〈幻の…〉と呼ばれる名著
だったのです。太一が見抜いた本の価値を見抜くことができなかった老舗
の二代目。その直後、真志喜の父は、姿を消してしまいました。

10数年後。

ある日、山奥の旧家に、古書の買い付けにでかけたふたりは、思いがけな
い人物と出会います。

それは、真志喜の心に、おおきな棘のようにささっていた存在である父。

奇しくも、おなじ旧家の依頼で、古書の買い付けを競りあうことになった、
真志喜と太一のふたりと、真志喜の父親。(ちなみに、古書界のしきたり
では、競り行為は禁止されているとのことで、この作品でも、同様の設定)

そこで、語られる、それぞれの思い。

透明感のある文章のなかに、風雅な香りをただよわせながら、つづられて
いく、濃密な感情。月の光のなかで、一瞬、かいま見せる魚のきらめきの
ようなものを映しだしていく物語。あなたは、おそらく、主人公たちの心
の底に沈んでいるなにかを感じるはずです。

■著者:三浦しをん ■出版社:角川書店 ■価格:税込1890円

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by revenouveau | 2005-09-21 07:24 | 立読のようなもの
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