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海の仙人

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


あなたは、いまの仕事をやめて、どこか静かなまちでひっそりと暮らしたい
と思ったことはありますか。

独特の青をたたえた海が美しい福井のまち。敦賀。

宝くじで3億円を当てた主人公・河野は、それまでつとめていた銀座のデパ
ートやめ、このまちでのんびりと暮らしはじめました。

海の砂をしきつめたリビングで昼をすごし、ときには、懇意にしている老人
と釣りにでかけたり、船でちかくの島にわたったり… 
いずれにしても、なにかをしなければといった、あてもありません。

あるとき、リビングに入れ替えをする砂の採取に海岸にやってきた河野の目
の前に、得体のしれない「何ものか」があらわれます。

   「ファンタジーか」
   「いかにも、俺様はファンタジーだ」
   「何しに来た」
   「居候に来た、別に悪さはしない」

またまた、こんな展開です。

ちかごろ、こんな本によく出会います。

主人公をとりまく、なんにんかの女性や男性。そして、〈ファンタジー〉の
なんでもないような日々が、さらさらと流れます。

手のひらにすくった砂が、いつのまにか、こぼれてしまっているような感じ。
気がつくと、地面には、なにやら美しい模様ができている。知らないうちに、
居心地のいい世界がそこにできあがっているのです。

不思議なのは、たいていのひとが〈ファンタジー〉を見たとたん「ファンタ
ジーだ」と一目でわかってしまうところ。

けれども、そのなかにあって、その「何ものか」を〈ファンタジー〉だと気
づかなかった女性がいたのです。河野の元同僚という設定のかのじょ。この
かのじょだけが、わたしの目に、とてもいきいきと人生を生きているように
映ったのは、示唆的なことだったのでしょうか。

それにしても、この〈ファンタジー〉。「神様」としている書評がけっこう
多いのですが、なぜなのでしょうか。登場人物が、〈ファンタジー〉のこと
を「神様」と思いこんでいるようなフシはあるのですが、地の文では断定し
ていなかったと思うのですが…

■著者:絲山秋子 ■出版社:新潮社 ■価格:税込1365円

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by revenouveau | 2005-06-30 09:02 | 立読のようなもの
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