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パビリオン山椒魚

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


19世紀のパリ万博に出品されたオオサンショウウオのキンジローをめぐる
デタラメにおもしろいフィクション。

自称“天才レントゲン技師”の飛鳥芳一は、政治結社「第二農響」の会長
からの依頼で、150年を経て、いまや伝説となったキンジローがほんもの
であるかをたしかめるためレントゲン写真を撮ることに(オオサンショウ
ウオがほんものであれば、ある事故による骨折の跡があるはずなのです)。

動物国宝のオオサンショウウオ、キンジローの管理まかされているのは、
〈サラマンドル・キンジロー財団〉。

財団を代々運営してきた二宮家にしのびこんだ芳一は、女子高生・あづき
と出会います。

それは、世間で美人四姉妹と名高い二宮家の娘のひとり(四女)。

かのじょとの出会いをきっかけに、話しは、いよいよもつれはじめ…

オダギリジョーさんと香椎由宇さんの主演による同名の映画作品を、冨永
昌敬監督自身がノベライズ。 >>> DVD

3つの時代を超えて語られるストーリーを、ぜひ、お楽しみください。

■著者:冨永昌敬 ■出版社:河出書房新社 ■価格:税込1470円

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by revenouveau | 2007-02-28 09:34 | 立読のようなもの

きつねのはなし

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


大学在学中に「太陽の塔」で第15回 日本ファンタジーノベル大賞を受賞
した新鋭作家・森見登美彦さんの作品。

どこか下町の情緒がただようまち京都・一乗寺にある骨董店〈芳蓮堂〉で
アルバイトをはじめた大学生の武藤。ある日、かれは、店の格別な客であ
る天城から奇妙な取り引きをもちかけられます。

   「簡単なことだよ。君の下宿は石油ストーブかい?」
   「いいえ。電気ヒーターです」
   「それが私は欲しい」

バイト先の女主人・ナツメさんから「天城さんが冗談であなたに何か要求
するかもしれませんが、決して言うことを聞いてはいけません」と忠告さ
れたにもかかわらず、武藤は、天城の話しに応じてしまうのです。

いわば、京都の骨董店を舞台にはじまる現代の百物語。

表題作の「きつねのはなし」をはじめ、独特のタッチでつづられた全4編
が、妖しくも美しい、なぞの世界へとわたしたちを誘います。

■著者:森見登美彦 ■出版社:新潮社 ■価格:税込1470円

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by revenouveau | 2007-02-27 09:38 | 立読のようなもの

紙の子守歌   (47)



「お待ちどおさま」
 部屋にもどると、松野が、萱の簀桁を手にとってながめていた。
「いや、失礼。勝手に風呂敷をといて、あけてしまいました。みごとなで
きばえです。さすが、勝次さんの娘さんだ。かえるの子はかえる、とはよ
くいったものです」
 春恵は、ひざをつき、盆のうえで茶托に茶碗をのせると、どうぞ、と松
野のひざもとにさしだした。
「手間もお金も、たいそうかかったでしょう」
「ええ。でも、だいじょうぶです。お代は、ちゃんといただきますから」
 男に会えたうれしさで、女は、そんな軽口をたたいた。
「しかし、いいできです」
 松野は、また簀桁に目をうつし、顔を近づけ、しげしげとながめている。
「簀桁ばかりに気をとられて、私は、どうなるのですか」
 いってしまってから、はっとして、春恵は、畳に目をおとした。
 手にした簀桁を、松野は、ゆっくりと畳のうえにおいた。そのまま簀桁
を部屋の隅へ押しやって、ひざもとの茶碗をよけると、松野は、春恵のと
ころへにじりよってきた。
「会いたかった、とても…。けれど、仕事があったのでしょう。春恵さん
が仕事にかけているぶん、ぼくは、紙漉きと弓に打ちこんできました。こ
うして、はなれているあいだ、ぼくには、はっきり観えたものがあります。
春恵さんが、必要です」
 春恵は、まっすぐ、松野の目をみつめた。
「うちにきてくれますね、春恵さん」
 松野の問いは、明快だった。男は、待った。
 めずらしく野鶲がきて、庭さきで啼いている。
 紙障子のむこうには、昼どきの春のあかるさがあった。紙の肌理をとお
してくる、やわらかくこなれた光を目の端にいれながら、春恵は、ゆっく
りとまぶたをとじた。そうすることが、いま松野が、いちばん欲している
ことだ、と感じたときには、肩を抱かれていた。まなかひに、ふれてはい
ない重さがある。松野は、唇をかさねた。すっと、眠りにひきこまれるよ
うなだるさが、春恵の身体をとりまいていく。はじめておろした銹朱の帯
が、するするとほどけていった。
 ああ、このひとと結ばれていくのだ、と思ったとき、春恵は、まっすぐ
に傾斜していった。そのあとは、ふたりだけの世界である。男が女をつら
ぬいていく。身体をあわせていながらも、肉欲とは無縁のようだった。あ
とは、どうなったのか、春恵にはおぼえがない。
 気がついたとき、春恵は、芝川の流れのまえに身をおいていた。藍木綿
の棒縞のきものは、しゃんと着こなしていたが、下駄はかさねて手にもっ
ている。足もとに目をやると、くるぶしのあたりまで黒い山土でよごれて
いた。

                       (つづく・全50回)

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「紙の子守歌」は、毎週月曜日・木曜日(平日)に掲載します。

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by revenouveau | 2007-02-26 10:24 | 小説のようなもの

アタシ、どこか間違ってる?  (30)

「そのひとの言葉づかいには、だれもが頭をかしげました」


さて、この言い方のどこが間違っているのでしょうか。

正解例は、こちら...
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by revenouveau | 2007-02-23 09:48 | 美句のようなもの

紙の子守歌   (46)



 ようやく、萱と馬の尾毛で編んだ簀桁ができあがったのは、となりの家
の土蔵に燕が巣づくりをはじめたころだった。ときおり、白いはらを空に
みせながら、嘴に泥をくわえて田圃と土蔵とを往還する。
 春恵は、仕上がった簀桁をくいいるように調べ、なにごともないことを
みとめると、ていねいに薄紙をかけ、風呂敷につつんだ。
「それでは、いってまいります」
 戸口のところから、身体をななめにむけて、春恵は、勝次と正子にでが
けのあいさつをした。おもては、朝の空気が澄みわたって、ここちよい。
 春恵の足は、自然といそぎがちになった。一心に、松野の家へむけて歩
をはこぶ。山かいの道に、すみれの花が、うつむきかげんに咲いていたの
にも気づかなかった。
 あと二、三日したら簀桁ができる。春恵は、手紙にそう書いて、松野に
報せてあった。けれど、とどけたいのは、簀桁ではなく、松野へのはやる
思いだった。
 富士宮の山道をいくと、拓けたところに、背をひくく建てた光悦垣がみ
えてきた。松野の家の、独特のしつらえである。なにごとも、こだわりな
くうけいれてくれる、住むひとの寛容さを思わせるようでもあった。
 松野は、庭さきの井戸で、顔を洗っていた。いきおいのある水の音が静
まると、腰につけた手ぬぐいをとって、しずくをふいた。
「やあ、春恵さん。とうとう、できましたか」
 ぬぐったばかりの、松野の顔が、うっすらとあかい。清潔感のある男だ
が、ひざのあたりのほころびやシャツのしわが、ひとり住みのわびしさを
思わせた。
「はい。心をこめて、つくらせていただきました」
 さ、なかへ、と松野は、春恵を母屋へと招じいれた。
 茶を淹れにたった松野をさえぎって、春恵は、あとをひきうけた。松野
の家の台所にたって、こうして火をつかっていると、松野の妻になったよ
うな思いがわいてくる。男のために、こまごまとした家内のことをやって
すごす。こんなことも、女の幸せのひとつだろうか。春恵は、考えてみた。

                           (つづく)

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「紙の子守歌」は、毎週月曜日・木曜日(平日)に掲載します。

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by revenouveau | 2007-02-22 10:42 | 小説のようなもの

図書館戦争

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


   『図書館の自由に関する宣言』
   1 .図書館は資料収集の自由を有する
   2. 図書館は資料提供の自由を有する
   3. 図書館はすべての検閲に反対する
   図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、
   あくまで自由を守る
           (日本図書館協会 1954年採択・1979年改訂)

2019年、公序良俗を乱し、人権侵害の表現を取り締まるために成立した
『メディア良化法』が施行された日本。

強権的で超法規的な〈メディア良化委員会〉と、その実行組織〈良化機関〉
の言論弾圧に対抗できるのは、図書館でした。

やがて、図書館は、『図書館に自由に関する宣言』(上記)を法制化した
『図書館法』を根拠に独自の防衛組織である図書隊を組織。

かれらは、武装し、〈良化機関〉との長きにわたる戦いへと突入していく
のです。

なんとも、荒唐無稽なストーリー。

登場人物も、防衛部・図書特殊部隊所属・一等図書士の笠原郁という身体
能力抜群だけれど座学は苦手な女性(むしろ女の子と呼びたい)をはじめ、
個性的なキャラクターぞろい。

興味をお持ちになられた方は、同シリーズの第2弾「図書館内乱」、第3
弾「図書館危機」も、チェックしてみてください。

■著者:有川 浩 ■出版社:メディアワークス ■価格:税込1680円

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すでにこの作品をお読みになった方へのおまけ
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by revenouveau | 2007-02-21 10:01 | 立読のようなもの

通天閣

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


軽やかな口調で「近くに住んでたとき、しんどいことがあるとのぼってた。
ただボ〜ッとできる感じが好き」と、その場所への思いを語る、西加奈子
さんの書き下ろし。

舞台は、冬の大阪ミナミ。通天閣が見える、得体の知れないエネルギーが
あふれているこのまちで、独特の雰囲気を醸しながら物語は展開します。

主人公は、40代の男性と20代の女性。

ひとりは、夢も気力も失いつつ、百円ショップなどで売られる品物の部品
を組み立てる町工場で働く中年男性。かたや、ニューヨークで勉強するた
めに旅立った恋人に見捨てられそうな危機のなか、かれの気をひこうとス
ナックで働きはじめる若い女性。ふたりがみた夢を挿話としてはさみなが
ら、それぞれの状況が交互につづられていきます。

いつもの日常が繰り返され、そうした毎日にうんざりしているにもかかわ
らず、そこから抜け出ることができないふたり。

はたして、ふたりは、どうなっていくのでしょう…

おわりちかくまで言葉も交わすことすらなかったふたりでしたが、冬の夜、
通天閣で起きたある珍騒動が、ちいさな奇跡を生み、ふたりにやさしい光
をなげかけたのです。

■著者:西加奈子 ■出版社:筑摩書房 ■価格:税込1365円

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by revenouveau | 2007-02-20 10:13 | 立読のようなもの

紙の子守歌   (45)



「私に、つくらせてもらえませんか」
 仕事場の隅から、春恵の声がした。勝次と松野は、どちらからともなく、
そちらに顔をむけた。
「その簀桁を、私につくらせてほしいのです。私は、簀桁職人の娘です」
 春恵の目が、凛とかがやいた。
「春恵さんが…」
 はい、と春恵は、松野をまっすぐみつめた。
「娘がやる、というのですから、私が断るわけにもいきません」
「おひきうけしても、よいのですね」
 春恵は、松野とも、勝次ともなく念をおした。
 なん年もこの道を歩いてきた自分が思いやんだことを、娘の春恵は、い
ともたやすくひきうけた。いつのまに、これほどつよくなったのだろう。
勝次は、仕事場の隅でちんまりと坐っている娘に目をやりながら、そのか
わりように感じいっていた。
 勝次は、春恵をうながし、松野の意向をいれて、簀桁の寸法を、定寸の
およそ三分の一の、幅八〇センチ、奥行き四五センチときめた。
 それからの春恵は、いきいきと生きかえるようだった。
 萱と馬の尾毛の簀桁づくりは、しかし、思ったほどにはかどらなかった。
 萱は、すすきをつかった。すすきは、そのへんの野にいくらでもあった
が、竹のように太さがうまくきまらない。おなじイネ科でありながら、こ
うも違うものかと思いなやむ。竹に慣れた春恵の手に、萱は、むずかしい
材料だった。ちいさな炭火で暖をとり、冬の夜を徹して仕事をした。あか
ぎれた指に、細く裂いた萱が容赦なくくいこんでいく。馬の尾毛も、伝手
をたどってたずねたが、なかなか思うようなものが手にはいらない。やっ
と、いいものが集まったのは、節分をすこしすぎたころだった。
 勝次は、娘の仕事を、じっとみまもった。おそろしいまでの気迫がつた
わってくる。それはまるで、春恵のいのちを、簀の一本いっぽんに編みこ
んでいるようだった。
 神々しいほどの、女である。松野を思うと、たとえ地獄にいても、春恵
には勇気がわいた。煩悩の薪を燃やして菩提をえている。春恵の姿は、そ
んなふうにみえた。

                           (つづく)

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「紙の子守歌」は、毎週月曜日・木曜日(平日)に掲載します。

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by revenouveau | 2007-02-19 09:57 | 小説のようなもの

アタシ、どこか間違ってる?  (29)

「かれは、大学の伝統をおざなりにしている」


さて、この言い方のどこが間違っているのでしょうか。

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by revenouveau | 2007-02-16 09:39 | 美句のようなもの

紙の子守歌   (44)



 松野が、勝次の仕事場に姿をみせたのは、竹の切りだしがおわった、晩
秋の日の昼すぎだった。
 陽に灼けた色が、わかい男の顔に精悍さをあたえている。
 勝次は、春恵がなにか報せたのか、と訝しんだが、そうではなかった。
仕事場の隅で、仕上がった簀桁の具合を調べていた春恵は、松野の顔をみ
つけてひどくおどろいた。松野は、春恵をみとめると、以前とかわらず、
やわらかな目をあてて軽く頭をさげた。春恵もそれにこたえて、ゆっくり
会釈したが、すぐに仕事をする指さきに視線をうつした。平静をよそおう
春恵は、いたいたしい。正子は、勝次のとなりで、そんな娘をみていて、
どこか辛いようだった。
「きょうは、勝次さんにみてほしいものがあって、山をおりてきました」
 松野は、手にもっていた古い写真集をひらいて、勝次からまっすぐみえ
るように、仕事場の床のうえにおいた。勝次は、ひらかれた頁に目をやる
なり、口をひらいた。
「簀桁ですね。なんともいえず、やさしい簀編みの表情です。これなら、
いい紙が漉けるでしょう」
 左の頁に、白黒の写真で、簀桁が載っていた。右には、説明の文章が活
版で印刷されている。
「萱と馬の尾毛でつくった簀桁だと書いてあります」
「ほう、萱と馬の尾毛…」
 勝次は、松野の言葉をくりかえした。
「ええ、そうです。きょうは、勝次さんに、この簀桁を復元していただけ
ないものか、と相談にあがりました」
「それを、私が…」
 腕組みをした勝次は、すこし思案顔だった。
「私も、萱の簀桁は、話しにきいたことがあります。かつて、材料につか
っていた絹糸や竹ひごの値がひどくあがってしまい、その代用としてつく
られた、ということだったでしょうか…。しかし、いまそれを実際につく
るとなると、難儀なことです」
「そこをなんとか…。勝次さんなら、と思ってお願いにあがったのです」
 ふたりは、しばらく押し問答のようになった。

                           (つづく)

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by revenouveau | 2007-02-15 10:04 | 小説のようなもの