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ドライブイン蒲生

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


貧弱な家庭環境で育ち、みずからも認めるハンパ者になった姉弟。暴力夫
との離婚問題をはじめ、さまざまなことに抗いながらも、生まれた土地の
しがらみのなかでしか生きられない姉の姿を弟の目線で描いた表題作。

そして、見えない花を咲かせて実をつけるイチジクを母親とじぶんの関係
のメタファーにした「無花果カレーライス」、とらえどころのない父親の
姿に伊藤たかみさんご本人の“父親のイメージ”とをかさねて書きすすめ
たという「ジャトーミン」の全3編を収録しています。

テーマは、30代の男性からみた家族。

けっして“よい”とはいえなかった親子の関係。思い出をたどるなかで、
親の存在を疎み蔑みながらも、ついには、断ち切ることのできないつなが
りがうかびあがります。

■著者:伊藤たかみ ■出版社:河出書房新社 ■価格:税込1470円

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by revenouveau | 2006-10-31 09:42 | 立読のようなもの

紙の子守歌   (17)



 山並は、松野の言葉の意味をとらえようとして、こうたずねた。
「弓の修業としうのは、実際には、どういったものなのでしょうか。
 すべての修業法を知っているわけではありませんが、私が教えられる
ことについてお話ししましょう、と松野は語りはじめた。
「葉蔵さんは、子どもの私を、はじめからひとりの人間として一人前に
あつかってくれました。当時十二歳の私にとって、それはひどく辛いよ
うにも思えましたが、心のどこかでうれしい感覚が生まれていたことも
たしかです。父に習っていたときは、まだ小さな弓をもたされていたの
で、葉蔵さんが、いきなり七尺二寸の並鉾をあたえてよこしたのには、
面食らいました。せめて二寸ほど短い寸詰まりにしてほしい、と思った
ものです。とうぜん、私には、引けませんでした。私がその並鉾を引き
わけられるようになったのは、十五の歳だったでしょうか。ようやくそ
のとき、弓を引きわけるのは、力ではないことがわかったのです。葉蔵
さんは、手をとって教えてくれたりはしません。自分が引きわけでみせ
るだけです。ふだんはやさしいひとが、こうも変われるものか、と私は
思いました。しかしそれは、技はだれも教えてくれない、盗まなければ
自分の道はないのだ、という職人のきびしい世界を生きてきた葉蔵さん
ならではの指導法だったのだ、といまになって思われます」

                           (つづく)

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「紙の子守歌」は、毎週月曜日・木曜日(平日)に掲載します。

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by revenouveau | 2006-10-30 09:22 | 小説のようなもの

アタシ、どこか間違ってる?  (17)

「いやがおうにも期待がたかまります」


さて、この言い方のどこが間違っているのでしょうか。

正解例は、こちら...
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by revenouveau | 2006-10-27 09:43 | 美句のようなもの

紙の子守歌   (16)



 いつのまにはきかえたのか、松野の足もとは、紺足袋にかわっていた。
蝉籠の花にどれだけ見惚れていたのだろうか、山並は、考えてみた。
 こたえはしない鷺草のちいさな白が、矢場をぬけていく風にゆられて
いる。
「ちいさなころから、弓をやられているそうで…。奥さまから伺いまし
た」
「道楽もこれだけ長くやると、なかなかやめられません」
「いや、そんなことはないでしょう。私は、弓は素人ですが、先ほどの
稽古を拝見していて、心に感じるものがありました」
 そうですか、と松野は、顔をくずした。そこには、ひとの心をゆたか
にさせる表情がかくれていた。はじめて目と目を交わしたとき、生粋の
職人である社長の眼に通じるものがあると思ったことは間違いなかった、
と山並は感じた。
「矢場、というのですか、こういう場をご自分の敷地内におもちの方は、
弓をなさる方のなかでもそう多くはないでしょう。それを考えても、と
ても道楽とは思えません」
「この矢場は、父がこしらえたものです。とうぜん雨風にさらされれば、
いたみがでますので、途中で修繕はしましたが、もとのかたちは私が生
まれるまえからありました」
 そういわれて、山並は、戸口、板の間、板壁、的場とぐるりをみまわ
してみた。矢場には、たしかに過去と伝統があった。
「そうしますと、弓は、お父さまから習われたのですか」
「弓をはじめるきっかけは、たしかに父でした。しかし、弓の師匠は別
におり、父の手伝いをしていた坂本葉蔵というひとが、私に弓を教えて
くれたのです」
 葉蔵さんは、弓の名人であったと同時に、私の紙漉きの師匠でもあり
ました、と松野はいった。興津川をさかのぼった和田島というところで、
紙を漉いていたが、弓の腕前を松野の父に見込まれて富士宮に移ってき
たのだという。和田島といえば、安倍川、興津川、富士川にそって発達
した駿河和紙のなかでも全国各地に流通した質の高いもののひとつだっ
た、とも松野はいった。
「弓の名人と紙漉きの師匠、そこになにか関係があるのでしょうか」
「さて、どうでしょう。私は、それを呼吸であると感じましたが…。そ
うしたことは、肌でとらえるしかないのです。じつは、私が勝手にそれ
らを結びつけているだけなのかもしれませんし、深いところで観た場合
には、すべてのものが繋がっているようにも思えるのです。なにか説明
のしようもなくて、もうしわけありません」

                           (つづく)

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「紙の子守歌」は、毎週月曜日・木曜日(平日)に掲載します。

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by revenouveau | 2006-10-26 09:28 | 小説のようなもの

女たちは二度遊ぶ

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


どしゃぶりの女/公衆電話の女/自己破産の女/殺したい女/夢の女/平
日公休の女/泣かない女/最初の妻/CMの女/十一人目の女/ゴシップ
雑誌を読む女

11人の男性が、それぞれに付きあったり、関わったりした女性の思い出
を語る短編集です。

吉田修一さんの観察眼から紡ぎだされるさまざまなストーリー。

せつなく、あまく、にがく、かなしい…

2時間特番オムニバスドラマでお楽しみください。 (って、ドラマ化の
予定は、いまのところありません)

■著者:吉田修一 ■出版社:角川書店 ■価格:税込1470円

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by revenouveau | 2006-10-25 11:26 | 立読のようなもの

ゆれる

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


東京でカメラマンとして活躍する弟の猛(たける)と、生まれた土地にの
こり、家業のガソリンスタンドを経営しながら父親の世話をつづける兄の
稔(みのる)。

対照的ではあるけれども、ふたりは、おたがいに尊敬しあっているかのよ
うにみえました。

しかし、ある事件をきっかけに、くずれはじめるそのバランス。

兄弟、であるがゆえに…

カギをにぎる登場人物たちの「かたり」を章だてに展開していく物語に、
わたしたちは、思わずひきこまれていきます。

ことし7月に公開され、話題となった映画「ゆれる」を監督した西川美和
さんが、同作品をみずから小説化。

主演のオダギリジョーさんが「おなじ世代として、その才能に嫉妬を覚え
る」と評したかのじょの文章は、あなたのこころを、どう“ゆり”うごか
すでしょうか。

映画をごらんになった方にも、ぜひお読みいただきたい一冊です。

■著者:西川美和 ■出版社:ポプラ社 ■価格:税込1260円

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by revenouveau | 2006-10-24 10:15 | 立読のようなもの

紙の子守歌   (15)



 松野は、胴造りをはじめていた。
 肩のちからをぬき、背すじをのばして、ゆっくりと呼吸をととのえる。
弦の中仕掛に矢筈をつがえ、頭のあたりで弓を構えると、矢を水平にた
もちながら左右に引き分けていく。
 しなっていく弓と張りつめた弦を見つめながら、山並は、そこに色香
が漂うのをおぼろげながらとらえていた。それは、なにか説明できない
感情だった。
 矢は、頬骨のしたに軽くふれて引きおさまった。機が熟していく。
 おや、沢があるのだろうか。このとき、山並は、水の音をきいた。
 的場には、高さ一メートルほどの砂の壁が築かれ、裾のほうに一間の
間隔で、同心円の霞的がふたつおいてある。砂壁には簡素な屋根がのり、
一見すると檜皮ぶきのちいさな上土門にだかれているようにみえた。
 しかし、松野がみているのは、的の中心だけだった。
 水の音は、山並の耳に、はっきりときこえた。
 弦の弾かれる短い音がした。そして、矢が大気を貫いていく長い音、
つづいて的を射す短い音。余韻がここちよい。自然な離れだった。
 ふと道場の脇に目をやると、射場の板壁に掛けた蝉籠に、思いがけず、
沢桔梗と鷺草が投げいれてあった。野趣にあふれた初秋の花は、主人の
もてなしだろうか。山並は、いまのいままでそれに気づかずにいた。
「お待たせしました」
 松野は、額と首すじの、うっすらとかいた汗に手ぬぐいをあてながら、
板の間のあがり端に坐った山並に歩みよってきた。山並は、あらためて
衿をただし、訪問の趣旨をのべ、あいさつをした。

                           (つづく)

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by revenouveau | 2006-10-23 09:44 | 小説のようなもの

Voyelles

     Jean Nicolas Arthur Rimbaud(1871)


A noir, E blanc, I rouge, U vert, O blue : voyelles,
Je dirai quelque jour vos naissances latentes.
A, noir corset velu des mouches eclatantes
Qui bombinent autour des puanteurs cruelles,

Golfes d'ombre ; E, candeurs des vapeurs et des tentes,
Lances des glaciers fiers, rois blancs, frissons d'ombelles ;
I, pourpres, sang crache, rire des levres belles
Dans la colere ou les messes penitentes ;

U, cycles, vibrements divins des mers virides,
Paix des patis semes d'animaux, pai des rides
Que l'alchimie imprime aux grands fronts studieux ;

O, supreme Clairon plein de strideurs etanges,
Silendes traverses des Mondes et des Anges :
-O l'Omega, rayon violet de Ses Yeux!

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日本語訳...
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by revenouveau | 2006-10-20 09:42 | 仏語のようなもの

紙の子守歌   (14)



 男の名は、松野泰昭。山並が、きょう、この富士宮をたずねた目的の
ひとである。松野は、六十八歳の今日まで、五十余年を紙漉きとともに
生きてきた。瞬時にかわした目のなかに、山並は、社長に通じる職人の
眼をみたような気がした。
 ここちよい緊張した空気が流れていく。山並は、これまで弓道という
ものを、これほど間近でみたことがなかった。じつに、たおやかな姿で
ある。松野は、両の脚を身の丈の半分ほどに間隔をあけて、外八文字に
踏みひらいた。足と足の爪先が、的と一直線上にならぶ。三十メートル
近くあろうと思われる射場の縁先と的場とのあいだを、白州が、間口の
幅で、一筋の道となってつないでいた。
 白州に目をやりながら、さきほど、夫人が山並に語ってきかせたこと
ばを思いだした。
「道場の端から的場まで白い砂が蒔いてあるので、なにか妙だとお思い
になるかもしれませんが…」
「いえ、私は、弓のことには不案内ですので、そうなっていればそうい
うものかと思うだけです」
 それは、なにかおかしなことなのでしょうか、と山並はたずねた。
「私にもよくはわかりません。主人の友人で弓をなさる方がみえたとき、
白州は光が跳ねて的がねらいにくい、とおっしゃったことがございます」
 なるほど、そういうこともあるのだろうか、と山並は考えた。
「それで、ご主人はなんと…」
「はい。主人は、そのとき、山は湿気が多いし黒土は見苦しいから白砂
を蒔いたのだ、とこたえておりました。矢場の造りにきまりがあるのか
どうかわかりませんが、友人の方がおっしゃることも、私には納得でき
るものでした。しかし、私がここに嫁いだときには、すでにそうなって
おりましたので、主人の言い分を、そうかと思うだけで、本当のところ
はよくわかりません」
 どうした理由があるのだろ。山並は、そう考えながら白州を見つめた。
昼さがりの陽射しをうけた砂は、まぶしく見えなくもなかったが、それ
よりもむしろ精神的な拠りどころのような神々しいものがそこにはある
ように感じられた。

                           (つづく)

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by revenouveau | 2006-10-19 09:50 | 小説のようなもの

三四郎はそれから門を出た

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


三浦しをんさんの、直木賞受賞後初の単行本は、ブックガイド&カルチャ
ーエッセイ集です。

かのじょの生活は「起きる。なにか読む。食べる。なにか読む。食べる。
仕事をしてみる。食べる。なにか読む。食べる。なにか読む。寝る」とい
う、まさに活字中毒者ともいうべきもの。(「食べる」も多いですが…)

大西巨人、マルキ・ド・サド、J・R・R・トールキン、ヘルガ・シュナ
イダー、U・K・ル=グウィン、京極夏彦、桐野夏生、斎藤美奈子、森絵
都、有栖川有栖、瀬尾まいこ、フジモトマサル、宮藤官九郎、嶽本野ばら、
みうらじゅん、二ノ宮知子、……(順不同・敬称略)

ブックガイドに網羅されているのは、内外の傑作から、コミックにいたる
まで、ありとあらゆるジャンルにわたる本たち。

三浦さんの、本への愛を感じさせる文章が魅力的です。

■著者:三浦しをん ■出版社:ポプラ社 ■価格:税込1680円

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by revenouveau | 2006-10-18 10:13 | 立読のようなもの