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ニート

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ニート。職に就かず、就職活動も職業訓練もしていないひとをさす言葉。

あるインタビューで、絲山秋子さんは、この本に、「ニート」というタイ
トルをつけたことについて、つぎのように述べています。

   ニートという言葉は蔑称だと思う。分類し相手をさげすむ言葉
   には共鳴したくない。と言いたくて、あえて題に使いました。

無職のまま日々懸賞小説を書いていたころのじぶんを思いおこし、「私も
『ニート』だった」という、かのじょがつづった5つの短編。

かけだしの女性作家と会社をやめてひきこもりをつづけているの青年との
淡い関係を描いた表題作「ニート」と、その続編「2+1」、大阪に住む
かのじょと名古屋にいる育ての母とのあいだでゆれる東京のホテルマンに
焦点をあてた「へたれ」など…

繊細でむだのない文章が、なんともいえないふしぎな関係を縁どっていき
ます。

行き場のなさにあえぎながら、ふんばって立っているひとびと。こういう
ひたちを、わたしは「ニート」と呼ばないんじゃないかと思ったんですが、
はたして、どうなんでしょうか。

■著者:絲山秋子 ■出版社:角川書店 ■価格:税込1260円

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by revenouveau | 2006-07-31 09:32 | 立読のようなもの

〈想像〉のレッスン

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後期フッサールの現象学を発展させたフランスの哲学者メルロ=ポンティ
の教えを学びながら、人間のからだやファッションについて、しなやかで
強靱な思索をかさねてきた鷲田清一さん。

この哲学の先生は、とても好奇心がつよいことで有名。

本書は、そんな鷲田さんが、現代アートのさまざまな作品を手がかりに、
「見えない」あるいは「見えているのに気づかない」ものを「見る」こと
のレッスンを記録したものです。

とりあげられているのは、桑田佳祐さん(音楽家)、安藤忠雄さん(建築
家)、西嶋豊彦さん(日本画家)、河瀬直美さん(映像作家)、鈴木理策
さん(写真家)、南木佳士さん(小説家)、中島美嘉さん(歌手)など、
かなり広範囲にわたる作品。

それぞれに材をとった、ちいさなエッセーのようなものをつらねながら、
かすかな違和感をすくいとるために、日常の〈裂け目〉にわけいっていく
ようすは、まさに鷲田さんから〈想像〉のレッスンをうけているよう。

想像(力)。

ここにあるものを手がかりに、ここにないものを想う。おそらく、人間だ
けにそなわっているのであろう、この能力に興味のある方におすすめです。

ちなみに、鷲田さんの文章は、散文詩的というか、その難解さゆえに大学
受験において頻出作家ともなっているので、くれぐれもご注意を。

■著者:鷲田清一 ■出版社:NTT出版 ■価格:1785円

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by revenouveau | 2006-07-28 09:35 | 立読のようなもの

にょっ記

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日記ならぬ「にょっ記」。

このなんとも奇妙なタイトルが、この本を端的にあらわしているとえいる
かもしれません。

詩的な文章があるかと思えば、いきなりシニカルになってみたり、さまざ
まなテイストが散乱する、くすくす笑いとハイブロウな後味のウソ日記。

鬼才?ホムラヒロシさんのユーモアのセンスも全開で、イラストレーター・
フジモトマサルさんの挿し絵もまた魅力のひとつです。

■著者:穂村 弘 ■出版社:文藝春秋 ■価格:税込1300円

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by revenouveau | 2006-07-27 10:00 | 立読のようなもの

夜 市

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たとえば、それは台風や竜巻きのように、ある条件がととのえば「発生」
するのだという…

夜市(よいち)。

なんでも売っている不思議な市場。

おさないころ、夜市に迷いこんだ裕司は、じぶんの弟と引き換えに〈野球
選手の才能〉を手にいれました。

それによって、野球部のエースとして成長し、甲子園にも出場した裕司。

けれども、かれのこころは、人攫い(ひとかい)に、弟を売ってしまった
という罪悪感でつねにさいなまれていたのでした。

   今宵は夜市が開かれる。

ある日、学校蝙蝠のコトバで、夜市が開かれることを知った裕司は、高校
時代の同級生・いずみを誘い、弟を買いもどすために、夜市へと向かいま
すが…

発想の転換ともいうべき、思いがけない落としどころ。

幻想的でありながらも、むだのない知的な文章は、みごとです。

本書には、書き下ろし『風の古道(こどう)』も併録。

■著者:恒川光太郎 ■出版社:角川書店 ■価格:税込1260円

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by revenouveau | 2006-07-26 12:27 | 立読のようなもの

ハーフ

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こどもは親を選べないというけれど…

主人公・宮田真治は、小学生(高学年)。

父・裕治は、46歳になったばかりのサラリーマン。

母・ヨウコは、茶色い毛並みのいい雑種犬。

おさないころから、父に「おまえの母親は飼い犬のヨウコだ」といわれて
育ってきた真治。ヨウコが、じぶんの本当の母親じゃないと気づいたのは、
かれが5歳のころでした。

けれども、なかよしな家族のなかで育ったことや、じぶんが幸せなことは、
信じられる。

子ひとり、父ひとり、母いっぴき、おかしな家族の再生物語。

この家族は、あなたのこころに、なにを問いかけてくるでしょうか。

■著者:草野たき ■出版社:ポプラ社 ■価格:税込1365円

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■こちらも、ごらんください。「80頭を救いたいプロジェクト」
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by revenouveau | 2006-07-25 10:17 | 立読のようなもの

7月24日通り

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タイトルになっている「7月24日通り」は、ポルトガルのリスボンに実在
している通りの名前。

主人公〈小百合〉は、じぶんが生まれ住んでいる地方の町に、ポルトガル
のまちの地名や通りの名前を勝手にわりふって、リスボンになぞらえてい
ました。

これといったとりえもないじぶんにコンプレックスを持ちながらも、さま
ざまな理由をつけ、自己正当化して生きている日々。かのじょが“みすぼ
らしい”と感じているこの町こそが、かのじょ自身の“さびしい”こころ
の投影でもあったのです。

傷つくことをおそれ、「間違えたくない」という思いを抱いて歩んできた
人生。

そんなかのじょが、かたくななじぶんの殻をやぶり、ほんとうのじぶんと
出会うために「間違えてもいい」と考えるようになるまでの物語です。

■著者:吉田修一 ■出版社:新潮社 ■価格:税込1365円

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by revenouveau | 2006-07-24 10:00 | 立読のようなもの

いつかパラソルの下で  〈祝・直木賞受賞〉

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柏原野々は、天然石などを販売する雑貨店で働く独身の女性。

厳しすぎる父にイヤ気がして、成人したのをきっかけに、家をとびだした
まま。

そんな父が、突然の事故で他界し、四十九日の法要をむかえようとしてい
たころ、生前に父と関係があったという女性から、連絡がはいったのです。

家族の、だれにでも厳しかった父が浮気をしていたという、衝撃的な事実
に、のこされた家族は、まるで、きつねにつままれたよう。

生まれたところも、どんな人生を送ってきたのかも、語ることのなかった
父の過去を、いまさら、知りたくもない。たとえ知っても、どうせ、死ん
でしまったのだからと思う、野々。

しかし、父という、切り捨てることのできない存在ゆえに、野々は、父の
過去を知らなければとも思うのでした。

かつて、父が語っていた「暗い血」という言葉。その意味を確かめるため、
かのじょたち兄妹3人は、父の故郷だという佐渡へとむかいます。そこで、
明らかになった事実とは…

父の一周忌を前にとどく、父とじっさいに関係のあった女性からの手紙。

ひとりの男性を恋い慕う女性からみた、夫として、父として、そしてまた、
ひとりの男性として、ゆれうごく男心が、切々とつづられていて、とても
考えさせられるものがありました。

■著者:森 絵都 ■出版社:角川書店 ■価格:税込1470円

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by revenouveau | 2006-07-21 09:27 | 立読のようなもの

むかしのはなし  〈祝・直木賞受賞〉

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この本におさめられている、7つの短編のモチーフは、「かぐや姫」「花
咲か爺」「天女の羽衣」「浦島太郎」「鉢かつぎ」「猿婿入り」「桃太郎」
といった昔話。

けれども、それは、昔話のもつ実証主義的なニュアンスを、ただそのまま
現代へとおきかえたものではありません。

   「喜びか、悲しみか、驚きか、定かではないけれどとにかく、
    永遠に続くかと思われた日常のなかに非日常性が忍び入って
    きたとき、その出来事や体験について、だれかに語りたくな
    るのだ。
    だれでもない、だれかに」

と、三浦しをんさんが、〈あとがき〉で述べていることは、とても示唆的。

言葉による「語り」の切実さ。

この作品をつらぬいているものは、そうした、営々と、語りつがれてきた
物語への憧憬。

だれなのか、わからない、だれかに。その言葉が、伝わったかどうかさえ、
わからなくてもいい。ただ語る。その諦観の、つよさこそが、昔話のもつ
魅力なのではないかと思うのです。

さらに、三浦さんは、昔話のもつ、矛盾、不条理、残酷さを、その切実さ
の要素として加えることを忘れません。

こうした作品に、ゲーム世代特有の終末観や滅びの美学への傾倒を、見い
だすことはかんたんですが、わたしは、しかし、この作家が物語を紡ぐと
いう才能に長けていることに注目したいのです。

■著者:三浦しをん ■出版社:幻冬舎 ■価格:税込1575円

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by revenouveau | 2006-07-20 09:23 | 立読のようなもの

風に舞いあがるビニールシート  〈祝・直木賞受賞〉

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前作「いつかパラソルの下で」では、定職につかないでふわふわと生きて
いる女性を描いていた森絵都さんですが、今回は、地にしっかりと足をつ
けて生きるひとたちの姿にスポットをあてています。

                ●

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の一般職員として働く里佳は、
専門職員のエドと恋におちて結婚。

ところが、危険地帯で難民と接しているかれは、ほとんど帰ってきません。
子どもを欲しがる里佳の望みを受けいれることにも躊躇の態度を示します。

かれが身を投じている危険地帯では、ひとのいのちが、ビニールシートの
ように舞いあがり飛ばされていく。

エドは思います。「自分の子供を育てる時間や労力があるのなら、すでに
生まれた彼らのためにそれを捧げるべきだ」と。

一年に10日ほどしか会えないふたりの結婚生活は、7年で破綻。

数年後、エドが、アフガニスタンで少女を助けようとしていのちを落とし
たという報せをきいた里佳は、ある決意をするのでした。

                ●

表題作「風に舞いあがるビニールシート」のほか、だれもが平等に手をの
ばせる幸せを提供できるケーキの世界に魅せられた女性の物語「器を探し
て」、病気の犬をあずかったことでぐらついていた日々が信頼に足るもの
に思えてくる女性の話「犬の散歩」など、全6編をおさめています。

■著者:森 絵都 ■出版社:文藝春秋 ■価格:税込1470円

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by revenouveau | 2006-07-19 09:18 | 立読のようなもの

まほろ駅前多田便利軒  〈祝・直木賞受賞〉

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東京の南西部のはずれ、神奈川へつきだしたような地形をもって存在する
まほろ市。

八王子などからヤンキーたちがくりだし、暇をもてあました金持ちが妙な
娯楽をするような場所もかかえた、このまちの駅前に便利屋(多田便利軒)
はあります。

経営者の多田啓介と、そこにころがりこんできた行天春彦は、高校時代の
同級生。

思い描いていた仕事は、たとえば、ペットの世話、塾の送り迎え、納屋の
整理、恋人のふりといったものでした。

けれども、それぞれに“過去”をもつ、このコンビのところに舞いこんで
くる依頼は、どこか、きな臭いにおいのするものばかり…

さまざまな仕事をこなす途中で、妙なできごとに巻きこまれていくふたり
の物語は、ほんのりあたたかかったり、ほろりとせつなかったり、人間の
強さや弱さ、美しさや汚さをみせながら展開します。

   「犯罪に加担しているやつを見かけたら、おまえどうする」
   「放っとく」

などといいつつも、けっきょく“本気”になっていくふたりの姿がとても
魅力的です。

■著者:三浦しをん ■出版社:文藝春秋 ■価格:税込1680円

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by revenouveau | 2006-07-18 09:06 | 立読のようなもの