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畏れ慄いて

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


駐日ベルギー大使の娘として日本に生まれ育った、フランスの人気作家、
アメリー ノートンさんよる、ご自身の体験をモチーフにした小説です。

まずはじめに、この作品を読むこころがまえとして「これは、あくまでも
小説」であるという態度が必要だとお伝えしておきましょう。ここに登場
する日本は、日本であって日本ではない(「じゃぁ、どこだよ?」という
ツッコミ、ありがとうございます)と思ってお読みください。

               ●

主人公〈アメリーくん〉は、優秀な語学力をかわれ、日本に名だたる商社
ユミモト商事に入社。

けれども、その語学力がいかされることは、一向にありません。

くる日もくる日も、お茶くみやコピーとり、そしてトイレ掃除。

はじめは〈アメリーくん〉に優しかった上司のキャリアウーマンも、やが
ては、冷たい態度に… (けれど、かのじょは、ひそかに主人公の知性の
おもちゃにされ、プライドを傷つけられていくのです。ここは、ぜひ読ん
でいただきたいところ。微妙に説明しにくいような…)

異国(または、それまでとちがう環境)にあって、異なる価値観にザラつ
いた違和感を感じたとしても、それを笑ってしまえる、こころのゆとりが
あれば、困難も乗り越えていけることを〈アメリーくん〉は、畏れ慄きな
がらも、教えてくれたような気がします。

これは、外国人ではなくても、会社や組織のなかで、不本意な状況におか
れているひとにとって、共感をよぶ物語といえかもしれません。

               ●

この小説を原作に、2003年、フランスで、アラン・コルノー監督による
「Stupeur et tremblements」という映画がつくられました。

ちなみに、この映画には、フランスで女優として活躍中のブログフレンド、
辻かおりさんが、上司役として出演しています。

かのじょのブログでは、キャスティング時のエピソードなどを読むことが
できます。ぜひ、そちらもごらんください。

■著者:アメリー ノートン ■翻訳:藤田真利子 ■出版社:作品社
■価格:税込1575円

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by revenouveau | 2006-01-31 10:17 | 立読のようなもの

う つ わ   (4)



 矢は、頬骨のしたに軽くふれて、引きおさまる。静かである。源造の
すべての動作が、ここに集約されていた。
 的場には、一メートルほどの高さの砂の壁が築かれ、裾のほうに一間
ていどの間隔で、同心円の霞的がふたつおいてある。
 砂壁には簡素な屋根がのり、一見すると檜皮ぶきのちいさな門に的場
が抱かれているようにみえた。
 しかし、源造がみていたのは、的の中心だけである。心は、その一点
にだけあった。
 弦の解かれる短い音がした。矢が風をきる音。そして、的を射す音が、
つづく。余韻がここちよい。自然な離れだった。
 ひと呼吸おくと、源造は、縁からおりて下駄をはき、山際の矢取り道
から的場へむかい、的にささった矢をぬきとっていく。射場にかえり、
矢を矢筒にかえすと、弓から弦をはずして、それぞれをきまりの場所に
かたづけた。
 弦をひく右手の指に着けた道具へと源造がもう一方の手の指をかけた
途端、右の手首のあたりでひっそりと紫紺に鎮んでいた革ひもが、はら
りと解けて、生きもののように宙を舞った。手なれた動作だった。ひと
つひとつ、むだのない動きが、どれも欠かすことのできない、ふしぎな
筋道をもってつながってみえた。
 気がつくと、いつとはなく、幸一は、矢取り道の片端にいた。
 老人は、言葉のかわりに、不器用な笑顔をなげた。
「源じぃ、ぼくにも、それを教えてくれ」
「ほぉ、おまえが弓を」
 老人は、そうこたえながら、少年の目に新しい力を感じていた。
 しばらくして、幸一の弓の稽古ははじまった。

                           (つづく)

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「うつわ」は、毎週月曜・木曜日(平日)に掲載します。

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by revenouveau | 2006-01-30 08:15 | 小説のようなもの

渋谷センター試験

(予想問題と解答例)


大学入試センター試験におくれること一週間。渋谷センター街のギャルを
対象に試験が実施されるとか、されないとか…

【国 語】
吉田兼好『徒然草』の冒頭・序段を現代語に訳しなさい。

   なぁ〜んかぁ、やることなくってぇ、一日中ウダウダしちゃってる
   のよ。ってゆ〜かぁ、アレなに、硯ってゆ〜の、アレに向かってぇ、
   思いつくまま(あ、ちょい待ち。メル来た!)えと、なんだっけ?
   そそ、思いつくまま、いいかげんなこと? 書きなぐってるとさぁ、
   アレッ、あたしって、アタマおかしくね? なぁんて気になったり
   するわけ。

【数 学】
√2(ルート2)を開いて、小数点以下第8位まであげなさい。

   1.41420144
   (ひとよひとよにおひとよし) あっ、なんかちがくない?

【政 経】
アメリカ合衆国の初代大統領はだれか答えなさい。

   桜の木を切っちゃったひと
   名前はまだない(って、をい! それって、猫のヤツだよ)

【物 理】
ニュートンが落下するリンゴをみて発見したのはなにか答えなさい。

   (えへ、簡単じゃん)リンゴも木から落ちる

【英 語】
つぎの英文を日本語に訳しなさい。
To be or not to be. That is the question.

   飛べ、大野と飛べ。それは、?だよ。
  (なに、コレ。意味、わかんなくね。ほんとに、?だよ)

※リスニング問題は省略します。



このたび、文部科学省のほうから「さえらさんのブログはかたすぎる」と
お叱りをいただきました。そこで、今回、このような試みをしてみました。
山本審議官、こんな感じでいかがでしょうか。


※「▲ほうから」というのは、所属ではなく、方角をあらわしています。
 悪質な消火器の訪問販売員が「消防署のほうからきました」というのとおなじです。
 みなさん、このような悪質なブログ記事にご注意ください。

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by revenouveau | 2006-01-27 18:28

ビッグマネー  Big deal!

〜 ハリウッド版リメイク(さえら案)〜


                         期待度:★★★☆☆
                         実現度:☆☆☆☆☆
【キャスト】

白戸則道(長瀬智也)
     ■ヘイデン・クリステンセン 
山崎史彦(原田泰三)
     ■ホアキン・フェニックス 
保坂 遥(長谷川京子)
     ■エミリー・デ・レイビン 
中川充ちる(岡本 綾)
     ■クレア・デーンズ 
小塚泰平(植木 等)
     ■アルバート・フィニー 
辰美周二(小日向文世)
     ■アンディ・ガルシア 

※ほか検討中

【ストーリー】

アルバイトとギャンブルで食いつないているヘイデンは、将来に不安を抱
えながらもだらだらとした生活をおくる毎日。ガールフレンドのクレアも、
かれのことで心配が絶えません。
ある日、ヘイデンは、コンビニへいった帰り道、謎の老人に出会います。
わけがわからないまま、老人の屋敷につれてこられたヘイデンは、銀行で
小切手を換金し、ある場所へとどけるという仕事を請け負うことに。小切
手の額は、なんと300万ドルという大金。
この妙な出合いをきっかけに、株取引の世界へと足を踏みいれることにな
ったヘイデン。老人の正体は、かつて“マーケットの神様”と呼ばれた相
場師バートだったのです。
バートにマーケットの極意を教えられ、ヘイデンは、やがて、世界有数の
銀行バンク・リバティの不正と闘うことに…

■監督:トニー・スコット ■初公開:未定
■出演:上記参照

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by revenouveau | 2006-01-27 08:50 | 立見のようなもの

announcement

つたない、小説のようなもの「うつわ」をお読みいただき、ありがとう
ございます。

いま、わたしは、みなさんのコメントにささえられているという思いで
いっぱいです。これは、まさしく、ブログというシステムの、ひとつの
恩恵なんでしょうね。

今回より、一週間に2回(月曜日・木曜日:平日)のアップをめさして、
書いていこうと思っています。どうぞ、よろしくお願いします。
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by revenouveau | 2006-01-26 08:19 | 所感のようなもの

う つ わ   (3)



              ■□■
 
 ときおり、よく焙じた鼓を打つような音が、源造の家から、もれ聞か
れた。矢場からこぼれる、かすかな刹那の音である。
 半畳ほどの沓脱ぎの土間があり、一段高い、よく磨きこまれた板の間
が射場になっていた。間口が三間、奥行きが二間、天井だけは二間半と
高いが、全体にはこぢんまりして見える。南面する側は、的にむかって
濡れ縁のように開け放たれており、雨除けの廂が長めに張りだしていた。
矢場の左手は、山の斜面で、鬱蒼とした竹林が自然の壁となった。
 幸一が、矢場にたつ源造の姿をはじめて見たのは、基地あそびの最中
である。
 短い張りつめた音を耳にして、幸一は、山の斜面を竹林づたいに少し
さがってみた。なにかがはじかれるような、その音は、源造が矢を射る
音だった。
 射手は、藍染めの弓道着をきて、白足袋をはいていた。百六十何セン
チメートルかの小柄な身体が、二メートルを優に超える弓をもちながら、
まことに遜色なく、凛とたっている。老人が、ふだん見かける実際の身
の丈よりもおおきく見えるのが、幸一にはふしぎだった。
 幸一は、自分の身体の中心を貫いていく思いを感じた。けれど、それ
がなんであるか、説明のつくものではなかった。
 じつに、たおやかな姿である。射手は、両方の脚を背丈の半分ほどに
あけて、外八文字に踏みひらいた。それぞれの足の爪先が、的と一直線
にならぶ。三十メートル近くあろうと思われる射場の縁先と的場とのあ
いだを、小粒の玉砂利が、間口のはばで、ひと筋のまっすぐな道となっ
てつないでいた。
 斜面からずり落ちないように、竹の根元を握りしめた手が汗ですべる。
幸一は、息をひそめ、じっとみつめていた。
 源造は、矢を射るために、胴づくりをはじめる。
 肩のちからをすっとぬき、背すじをのばして、ゆっくりと呼吸をとと
のえる。弦の中仕掛けに矢筈をつがえ、頭のあたりで弓を構えると、矢
を水平にたもったまま、左右に引きわけていく。
 しなっていく弓と張りつめた弦をみつめながら、幸一は、なにも考え
ることができなかった。ほかのなにも、目に、はいらない。そこにいる
のは、ふたりだけだった。

                           (つづく)

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by revenouveau | 2006-01-26 08:18 | 小説のようなもの

はなうた日和

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


世田谷区のまんなか、わずか2キロメートルの距離を、2両編成のちんま
りした電車が、南北にはしる路線があります。

歩行者といっしょに、信号待ちまでしてしまう、のんびりした、その感
じもまたいい。

世田谷線。

この作品は、その沿線を舞台にした8つの物語をおさめた短編集です。

大切なものを失ってしまった、小学生や元OL。

そして、別れに心を痛めるひと。

けれど、ひょんな出会いから、それぞれが、ほんのりと淡い希望をもっ
て生きていこうと思うのです。

はなうたがでるような、ちいさな幸せ。

いつもは、車を走らせてしまう、世田谷に住む友人の家、このつぎは、
このかわいい電車でいってみようかと思ったりしました。

■著者:山本幸久 ■出版社:集英社 ■価格:税込1575円

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by revenouveau | 2006-01-25 09:23 | 立読のようなもの

西の魔女が死んだ

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


中学生になってから、まもなく、まいは、どうしても学校に足がむかなく
なってしまいました。

パパは、単身赴任中。こまったママは、まいと話しあいをして、かのじょ
をしばらく“西の魔女”にあずけることに…

それは、ママのママ。日本人のおじいちゃんと結婚したイギリス人のおば
あちゃんのこと。

自然のなかで、自然とともに生きる、おばあちゃんとのくらしは、発見と
驚きの連続。やがて、まいは、おばあちゃんの家系に受け継がれてきた、
不思議な能力に魅了され、魔女修行の基礎トレーニングをはじめます。

魔女修行のなかでも、とりわけだいじなことは、なんでもじぶんで決める
こと。よろこびも、かなしみも、なにもかも、すべて。

西の魔女は、まいに、やさしい言葉で語りかけます。

   自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく
   思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はな
   いし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極
   で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めま
   すか。

いつも、生きるちからをあたえてくれる、西の魔女・おばあちゃん。

子どもむけの作品ですが、おとなにも、ぜひ読んでほしい一冊です。

(その後の、まいの物語「渡りの一日」も併録)

■著者:梨木香歩 ■出版社:新潮文庫 ■価格:税込420円

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by revenouveau | 2006-01-24 09:01 | 立読のようなもの

う つ わ   (2)



              ■□■

 幸一は、子どものころの多感な時期を天城ですごした。
 ともだちと缶けりや基地ごっこ、川あそび、虫採りなどに興じ、野山
を奔放にかけめぐっていた。
 そうした子どもの遊びをたのしむなかにありながらも、幸一は、なぜ
か弓の道へと心ひかれていった。それは、隣家にすむ源造老人とのふし
ぎな縁と、好々爺のもつ人の引力というべきものだったかもしれない。
 源造の家は、いわゆる旧家で、天城の地に何代もつづいた家柄だった
が、近所にすむものは、それについて多くを語ろうとしなかった。それ
は忌むべきものをさけるというより、人々のやさしさのあらわれとして、
そうあったのだと思われる。
 源造の父・徳之介は、太平洋戦争がいよいよはげしくなったころ、脳
の血管がやぶれて世をさった。それは、前の年に逝った徳之介の妻・津
弥のあとを追うような、はやすぎる死であった。そして、源造は、成人
をずっと先にみて、ひとりのこされるかたちになった。
 その後の源造のふんばりは、想像だにしないが、すさまじいものがあ
ったらしい。家は、戦後、傾きかけながらも、母屋と矢場を擁するてい
どにはもちこたえた。ただ、そうしたことだけがわかっていた。
 ときおり、いきさつを訊ねるひとがいても、
「わたしが食い潰してしまいました」
 と、源造は屈託なくこたえ、破顔するだけだった。
 彼は、終戦を十八歳でむかえた。旧家とはいえ、戦中戦後のきびしい
なかをひとりでやり通すには山林や土地をどうにかするしかなかったの
だろう。
 源造に子はなく、妻の志津とふたりぐらしだった。志津は、瀬戸内海
にうかぶちいさな島に生まれた女性で、十九歳のときに七つはなれた源
造のもとに嫁にきた。源造の遠縁にあたるものの紹介だという。
 源造の家は、武士の家系ではなかったが、弓は、当主のたしなみとし
て代々受け継がれてきた。それがどうした理由によるものか、彼はだれ
かに訊ねたことはなかった。しかし、弓をする、そのことが、ちっぽけ
な自分の傲りを律し、人としての芯をつくっていることを彼はたしかに
感じていた。
 温厚な源造の性分は、風采やたたずまいにもおのずとあらわれた。そ
れは、近所の人々が、彼を、「源じぃ」と親しく呼んでいたことからも
わかる。

                           (つづく)

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by revenouveau | 2006-01-23 08:06 | 小説のようなもの

AUDREY HEPBURN  母、オードリーのこと

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


早朝のニューヨーク5番街。タクシーから降りたった黒い夜会服の女性
が、クロワッサンをほおばりながら、ショーウインドウの宝石に見いる
麗しい姿に、うっとりしたひとも多いはず。

そう、これは、映画「ティファニーで朝食を*」のワン・シーン。

はたして、オードリー・ヘップバーンという女性は、どのような生き方
をしてきたのでしょうか。

   母にはひとつの秘密があった。それを打ち明けてもきっと気に
   しないと思う。

と、銀幕のスターだったあのころから、ユニセフ親善大使として途上国
の子どもたちのために活動した晩年まで、実の息子さんが語る、ひとり
の母 オードリーの真実。

   息子が学校に通いはじめ、撮影現場につれていけなくなると、
   映画出演を中断し、母親業に専念したこと。

   バレエシューズをはいてローブでくつろいでいたこと。

   あかりを消して恋愛についておしゃべりした週末の旅行。

など…

オードリーのことが、さらに、すてきに感じられる内容がいっぱいです。

きょう、1月20日(1993年没)、かのじょの命日によせて。

■著者:ショーン ヘップバーン・ヘラー ■翻訳:実川元子
■監修:加藤タキ ■出版社:竹書房 ■価格:税込3500円

ティファニーで朝食を*(1961年)
■監督:ブレイク・エドワーズ ■原作:トルーマン・カポーティ

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by revenouveau | 2006-01-20 08:32 | 立読のようなもの