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紙の子守歌   (50・最終回)



     あっちの楮は みごとでござる

 あっ、と山並は、声をだしそうだった。
 松野が、いま目のまえでうたっている歌を、山並は、知っていた。

     あっちの楮は みごとでござる
     こっちの楮は どうかいな
     ゆらり ゆられて 舟のなか
     ゆらり ゆられて 紙こにおなり
     紙こになったら なにあげよ
     紙こになったら あめひとつ
     白いべべ着て 村をでる

 山並が、子どものころ、布団にはいって寝付くまえに、母がとなりでう
たってくれた歌である。
 気づくはずもなかった。
 春恵の物語は、しかし、母、春乃の物語だった。
 こんなことが、あるものなのか。
 萱の簀桁は、やはり、借りるわけにはいかないだろう。
 伝えつづけなければならない歴史や過去があるように、しまっておきた
い過去も、あるいはあるのだろう。山並は、考えた。
 矢場でみた、鷺草のちいさな白に、母のつつましい半生が、かさなるよ
うにしてうかんできた。

                             (了)

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「紙の子守歌」は、今回で完了となります。
おつきあいいただき、誠にありがとうございました。

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by revenouveau | 2007-03-08 10:14 | 小説のようなもの
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