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め き き   (18)



「おや、めずらしいですね、おふたりして。きょうはなにかあったんで
すか」
 商店街の会合があった帰りだ、と真野が伝えた。
「きょうは、なにがある」
「鰺です。たっぷり脂ののったのが。それと平目ですね。型はちいさい
ですが、いい平目です」
「鰺と平目か…。じゃ、それぞれ造りにしてくれ。あとは、酒だ。熱燗
でたのむ」
「ぼくは、ビールにしてください」
 注文をすませると、奥から、いらっしゃいませ、と木綿のきものに割
烹着をかけた板前の妻があらわれ、おしぼりを置くと、調理場の隅にさ
がっていった。
 やがて、鰺と平目の造りが白木のカウンターにのった。
「皿をかえたのか」
 真野は、よく引き締まった土味のある平皿に目をやった。
「ええ、こいつに尻をたたかれて、伊賀のほうに行ってきました。真野
さんが、言ってたでしょう、なんてい言われて…」
「なるほど、いいものを見つけてきたな。板前の顔に似合わず〈嶋家〉
の味は、勢いがありながらどこか繊細だ。だから、こういう皿があう。
いい女房だな」
 へへ、と板前は照れ笑いした。

                           (つづく)

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「めきき」は、毎週月曜日・木曜日(平日)に掲載します。

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by revenouveau | 2006-06-08 09:11 | 小説のようなもの
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