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となり町戦争

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


【となり町との戦争のお知らせ】
開戦日:9月1日  終戦日:3月31日(予定)  開催地:町内各所

町役場からの広報で、突然の、となり町との開戦を知った〈僕〉。

けれども、町にかわったようすはなく、いつもどおり。ましてや、戦争の
気配など、どこにもありません。

いつしか、戦時下であることを忘れ、以前のような日常をすごしはじめた
〈僕〉は、町役場から呼びだしをうけ「戦時特別偵察業務従事者」に任命
されるのです。任務は、通勤の途中、となり町を通過する際にみたことを
記録・報告するだけでしたが、戦争につながるできごとは、どこにも見当
たりません。

けれども、町の広報には、確実に戦死者の数が記され、町役場・となり町
戦争推進室の女性・香西さんは〈僕〉に言うのです。

「あなたは確実に、今、戦争に手を貸し、戦争に参加している」と。

やがて、〈僕〉は、新たな任務を命じられ、となり町戦争推進室分室と名
づけられた、となり町のアパートの一室で、香西さんと夫婦としてくらす
ことに。〈僕〉は、この戦争に関する現実感のなさや疑問を、かのじょに
ぶつけますが、答えはでません。

かのじょは、戦争という事業を予算内で効率的に運営することが、行政の
仕事だと言い切り、日常の家事の分担も、〈僕〉との肉体関係も、すべて
業務として淡々と遂行していきます。

そして、となり町との戦争は、終戦予定日を前に、勝利者もなく、唐突に
おわるのです。

感じることのできない戦争。抽象的な概念として知っているだけの戦争。
それは、いま、こうしている間にも、この世界の、どこかでおきています。

現実感の欠如というカーテンのむこうで、みえない戦争が、おこっている
ことを思うと、背筋が寒くなります。

せつない、物語のおわり。〈僕〉の、さいごの現実感をかけた行動が、胸
にささってきます。

■著者:三崎亜紀 ■出版社:集英社 ■価格:税込1470円

となり町戦争_d0063999_8252063.jpg
by revenouveau | 2005-08-24 08:25 | 立読のようなもの
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