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むかしのはなし

(「立読のようなもの」にはネタばれがある場合がございます)


この本におさめられている、7つの短編のモチーフは、「かぐや姫」「花
咲か爺」「天女の羽衣」「浦島太郎」「鉢かつぎ」「猿婿入り」「桃太郎」
といった昔話。

けれども、それは、昔話のもつ実証主義的なニュアンスを、ただそのまま
現代へとおきかえたものではありません。

   「喜びか、悲しみか、驚きか、定かではないけれどとにかく、
    永遠に続くかと思われた日常のなかに非日常性が忍び入って
    きたとき、その出来事や体験について、だれかに語りたくな
    るのだ。
    だれでもない、だれかに」

と、三浦しをんさんが、〈あとがき〉で述べていることは、とても示唆的。

言葉による「語り」の切実さ。

この作品をつらぬいているものは、そうした、営々と、語りつがれてきた
物語への憧憬。

だれなのか、わからない、だれかに。その言葉が、伝わったかどうかさえ、
わからなくてもいい。ただ語る。その諦観の、つよさこそが、昔話のもつ
魅力なのではないかと思うのです。

さらに、三浦さんは、昔話のもつ、矛盾、不条理、残酷さを、その切実さ
の要素として加えることを忘れません。

こうした作品に、ゲーム世代特有の終末観や滅びの美学への傾倒を、見い
だすことはかんたんですが、わたしは、しかし、この作家が物語を紡ぐと
いう才能に長けていることに注目したいのです。

■著者:三浦しをん ■出版社:幻冬舎 ■価格:税込1575円

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by revenouveau | 2005-08-23 08:46 | 立読のようなもの
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